素人だからはっきり言いたい問題点
成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。トラブルが多いのは法定後見制度の方で、判断能力が低下した後に利用します。法律の観点から、法定後見制度の問題点やデメリットについての文章は、なかなかどうして理解しにくいものです。
数日前に行った国際福祉機器展で、手渡された(無理やり)【シルバー新報】という新聞に、法定後見制度のトラブル事例があり、私の理解を助けたので紹介してみます。
その前に、何故こんなことが起きるのかについての背景を、最初にまとめました。
法定後見制度のトラブルの背景
成年後見制度は、本人の権利や意思を否定することもあります。金銭や人間関係のトラブルに巻き込まれた際に、回復させるための制度で、本人の利益を守ることが優先されるからです。この利益を守るために作られたはずの制度が、時には弊害をもたらしてしまいます。
※ここでいう本人とは、後見人が必要とされる方のこと。
後見人は家族や親族がなるとは限らない
法定後見人制度は、家裁に利用の申し立てをすると、家裁が利用の可否を判断して後見人を選びます。本人は判断能力が失われていますので、申し立ては家族が行います。
この時、必ずしも家族や親族が選ばれるわけではなく、見も知らずの他人が選出されるケースの方が多いのです。実は成年後見人制度が開始された2000年頃は、親族後見人が90%台でしたが、徐々に減り、17年には親族後見人が26%まで低下してしまいました。
家族や親族が除かれる理由は、色々あるようです。例えば、後見人は本人の収支計画や財産管理の方針を決めて、家裁に提出し、毎年1回は家裁に報告書をまとめて提出する義務があります。財産管理に慣れている人ということで、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職の方が適任と考えられています。最近では、専門職以外の方「市民後見人」がなるケースも現れています。
最高裁判所が発表した成年後見人らの不正流用事件は、2016年に502件あり、ほとんどが親族によるものでした。こうした不正防止のために、専門職の後見人が選ばれるようになった経緯があります。
言うまでもなく家族以外の人は、本人の身体状況や人生観、家族関係を良く知っているわけではありませんので、様々なトラブルが生じてしまいます。(後で事例を紹介)
後見人を自分で選ぶなら
後見人を自分で選ぶこともできます。
まったく、本人の生活環境や事情を知らない第三者に法定後見人を頼みたくない場合は、「任意後見制度」があります。認知症などで、判断能力が低下する前にあらかじめ信頼する人と契約し、財産管理などを任せる仕組みです。任意後見契約書に、具体的に何をして欲しいのかを明記しておくこともできます。
日用品以外は自由に使えない
日用品などの必要経費以外は、自由に使うことができなくなります。たとえ家族であっても、財産を管理することができません。
相続税対策に、年間110万円までなら贈与税がかからず、引き落とせる「暦年贈与」があります。これもできなくなります。理由は本人の利益になるのではなく、家族の利益になるという判断で認められないのです。
日用品以外の費用が発生した場合、銀行から引き落としも後見人の承諾なしではできません。
成年後見制度をやめるのは難しい
成年後見制度は、一度申し立てると本人の判断能力の回復や死亡とならない限り、利用を終えることはできません。”こんなはずじゃなかった”と後悔することがないように、成年後見人が本人に代わってできることとできないことを知っておくべきです。さらに、トラブル事例などを集めておくと、理解が深まります。
後見人の報酬は、本人の資産状況や状況によって考慮されますが、東京家庭裁判所の目安として2万円です。本人が亡くなるまで間、年間24万円の出費は知っておきましょう。
法定後見制度は、本人の判断能力の応じて3つのタイプに分かれています。後見人に与えられる1番権利が多いのは、【後見】です。後見の場合で、後見人ができることとできないことをあげてみます。
【後見人が本人に代わってできること】
- 預貯金の解約や株式の売却
- 遺産分割協議や相続手続き
- 病院・介護施設への入院・入所契約
【家裁の許可を得て後見人が本人に代わってできること】
- 介護施設に入るため自宅を売却
- 自宅を建て替える
- 財産から一定の報酬を受け取る
【後見人にはできないこと】
- 食事や排せつの介助など生活支援
- 医療行為への同意
- 身元保証人、身元引受人、入院保証人などへの就任
- 本人の住居を定めること
- 婚姻、離婚、養子縁組、離縁、認知などの代理
- 遺言
- 日用品の購入の取り消し
後見人の多くは本人の意思を確認していない
2015年に日弁連は、後見人経験弁護士ら960人に、アンケートを行いました。その結果、「本人の意思を確認しない。」が15%、「しないこともある」が50%でした。理由は、「本人は合理的な判断ができない・しにくい」が、75%で最も多かったそうです。
なかには、介護サービスの内容や保険契約の他、住居先を勝手に決めてしまったケースもあります。※上記、後見人にできないことを参照すれば、違反です。
後見人制度を利用する動機
トラブルの原因は、後見人の質だけではなく、申し立てをする家族の動機にもあります。後見人制度を利用する動機は、「預貯金などの管理と解約」が最も多いそうです。次に、相続手続きや介護保険の契約(施設入所など)と続いていきます。本人が暗証番号などを忘れ、生活費を銀行からおろすことができなくなって、後見人制度を利用する人が多いのです。
しかし、後見人制度を利用すれば、日用品以外の購入は全て後見人にお伺いをたて承諾をもらわなくてはなりません。不自由な面に関しても、詳細に多くの人に周知させるべきでした。成年後見人のメリットだけが弁護士会などで、大きく取り上げられたために、”こんなはずじゃなかった”の嘆きが増えたのだと確信しています。
シルバー新報など掲載のトラブル事例
後見の杜代表 宮内康二さんは、後見人養成講座で講師なども務めていて、後見の質の向上を目指しています。投稿された書面には、後見制度利用者の嬉しい声なども書かれていましたが、今回はトラブル事例のみに焦点をあててみます。
次の事例は、家裁に選任された弁護士や司法書士後見人の言動です。怒った親族は、家裁に苦情をいれたものの”後見人とよく話し合ってみてください”と、突き放されることがほとんどでした。”話し合えるなら、とっくに話し合っていますよ!”と親族は、再び憤慨する悪循環だそうです。
家裁がダメならと、弁護士会へ懲戒請求する人もいます。しかし、使い込み以外のケースで、弁護士を懲戒した弁護士会はないそうです。司法書士の場合は、法務局へ懲戒請求をすることになりますが、やはり犯罪や違法性がなければ問題なしなのです。
夫の後見人に言われたこと
夫の後見人に言われた奥さん達の言葉です。
●夫と温泉旅行を計画しても、後見人はお金を出してくれません。新聞は理解できないからと、愛読してきた新聞を解約させられました。
●従来25万円の生活費でやってきたが、これからは10万円でやるように言われました。”足りない分はへそくりを切り崩してください”と言われます。
●”ご主人名義の家を売って医療費に充てたいので出て行ってもらえませんか?できれば離婚も考えていただきたい。奥様はまだ働けるだろうし、19歳の息子さんには早く社会人になって自立してもらいたいですね。”といわれたそうです。
親の後見人に言われたこと
●認知症の母のために購入した化粧水を、認知症には必要なしと言い切り、子供が勝手に買ったのだからお金を出さないといわれました。
●施設に入所している母が子供と会いたくないといっているので、施設に来ても合わせず帰ってもらう手配をしました。
●後見制度利用前に書いた親の遺言は、”子供が書かせたものだから無効なので、裁判で争います”と言われました。
介護事業所が後見人に言われたこと
●値上げを納得せず抵抗し、市役所にクレームを入れました。
●利用料を滞納します。
●”財産管理以外はしない”と断言した後見人は、本人に会いに来ずサービス計画書に署名しません。
●ついたばかりの後見人が解約を申し出て、本人をどこかに連れ去ってしまいました。事業所では解約される理由が思いつかずに、不可解なままとなっています。
使い込み
新聞などでもよく取り上げられている使い込みのケースです。
親族が後見人の場合は、お見舞い用の車、孫の学費、家計を補充するなどに使われています。弁護士や司法書士の場合は、事務所の経費や飲食代、自らの投資や選挙資金などです。
後見の質を高めるために
身寄りのない高齢者が増え続ける今、後見制度はやはり大切です。宮内康二さんは、この記事の中に後見の質を高めるための方策を書いています。すっごくいいと思いましたので、丸ごと引用してみます。
後見の質を高める方策として、後見人の取引先である介護事業者や、被後見人の身内から後見人に対する評価を求めるのも一案かもしれない。その評価を家裁が後見報酬に反映させればなおよい。
最高裁が年明けに「これからは親族後見で行きます」と家裁にむけて宣言したが、裁判官の専権事項であり、強制できるものではない。弁護士か親族かという議論や、使い込みがなければいいという価値観から逸脱し、後見の質を高める方策について知恵を絞るべきである。
2019年9月20日付けのシルバー新報より
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