介護者でも知っておかなければならないこと
脳梗塞の後遺症で口から食事がとれない時、医師は胃ろうを提案することがあります。胃ろうをつけなければ、低栄養状態で体力がもたず、衰弱した身体状況を回復させるためです。かつての家族は、命が助かるために了承してきましたが、胃ろうのデメリットもいわれ始めた昨今、決断をするのも迷い始めています。
こうした人工栄養の治療は、医療知識がない家族であっても、医療行為への是非を判断するための知識は必要です。我が母が近い未来に訪れるかもしれない、口から食事がとれない時対応について心の準備をしなければと考えています。
人口栄養の方法と、どうのように判断するべきなのか整理するために、あれこれと情報をまとめてみることにしました。
何故、口から食事がとれなくなるのか
高齢者が口から食事がとれなくなる理由で、考えられることは3点です。【脳卒中の後遺症】、【認知症で身体機能の衰弱】、【入歯のかみ合わせが悪くなり食べる力の低下】などです。
脳卒中の後遺症
脳卒中で摂食嚥下に関わる知覚障害や運動障害が起きると、噛めない、飲み込めない、むせるなどの症状が現れます。
認知症の身体機能の衰弱
認知症が進行すれば、脳の衰えと当時に体の機能も衰えていきます。歩く、食べるの意欲もなくなり、食べ物などの飲み込む機能も低下し、嚥下障害につながるのです。
入歯が合わないとか食欲減退で食事が楽しくない
高齢になると、歯茎が痩せて入歯が合わなくなっていきます。物が噛みづらくなることで、飲み込みも悪くなっていくのです。味覚も感じにくくなって、亜鉛入りのゼリーなども市販されていますが、食欲減退していくのです。食事が楽しくないので、食べる量が減り、やがて食べる能力も低下します。
口から食べれなくなった時の人口栄養の方法
終末期の胃ろうが人道的に問題視されるようになり、点滴や経鼻栄養に代替えをする人が増えたといいます。しかし、いずれにしても口から食べれませんので、味も歯触りもなく同じことです。人工栄養について調べてみます。
胃ろう
胃ろうとは、腹と胃へ小さな穴をあけチューブでつなげ、腹から水分や栄養剤を胃へ流し込む医療行為のことをいいます。手術は局所麻酔の内視鏡で行い、約15から30分で作れます。医師が1カ月から半年毎に器具を交換すれば、日々の管理は家族でも行えます。入院の必要がないというのは、魅力です。
他の方法とは違い、消化器官を働かせるために体調が安定しやすく、感染症の心配もありません。取り付けても違和感も痛みも少なために、長期間継続が可能な人口栄養です。
1990年ごろから、終末期の高齢者患者に長期間使われるケースが増えました。全日本病院協会の推定では2010年には、約26万人が利用していたといいます。やがて安易な延命治療という意見が出始め、コスト高であることもわかり、2014年には厚生労働省が診療報酬の改定を行い厳くしました。
胃ろうだけが悪者になり利用する人が減少していき、反面、経鼻栄養や、中心静脈栄養を選ぶ人が増えていきます。
日本静脈経腸栄養学会が全国の医師に、人工栄養の手法を調査したところ、2003年には胃ろうが71%、経鼻栄養が24%でした。2014年には選択肢に中心静脈栄養も加わり、同様の調査を行うと、胃ろうが34%、経鼻栄養が38%、中心静脈栄養が17%となりました。消化管が使えるのに、感染症のリスクが高い中心静脈栄養が行われている可能性もあったそうです。
胃ろうだけでなく、人工栄養も含めて理解していく必要性を感じます。
経鼻栄養
鼻からチューブを入れ、食道を通し胃へ栄養剤を送る方法です。患者に違和感を生じやすく、管を外そうとする高齢者もいることから、手が使えないようにミトンをつけたり、身体的な拘束を行ったりもします。さらに合併症のリスクもあります。
点滴(中心静脈栄養)
太い静脈に点滴チューブを挿入し、高濃度の栄養を持続的に入れる方法です。腸などの消化管機能が低下、あるいは働いていなくても、栄養を摂ることができます。
患者には強い痛みが伴い、感染症のリスクが高く、コストも高いといわれています。
医療行為を拒否することについて
「人工栄養は、延命治療につながり患者や家族を苦しめるだけなのではないか」というのが、昨今の主流です。胃ろうにかかる治療費の増加もあり、終末期での胃ろうは望ましくない意見が主流になりました。
ところが、終末期以外においてはメリットはあります。胃ろうによって栄養状態を改善し、身体機能の回復が図れ、嚥下訓練が行えて口から食べれるようになったケースもあります。
こんなことから、「必要な胃ろうは行うべし」、しかし、「終末期は家族や本人の意思を尊重すべし」と、状況に応じて判断する声が上がり始めています。
終末期医療と通常医療の線引きは難しいのが、現実です。回復を期待して胃ろうを作ったものの、口から食べる段階に至らず、そのまま寝たきりになるケースもあります。1日でも長生きできればと終末期医療と覚悟したものの、口から食べさせたい一心でリハビリを繰り返し、口から食べれるようになったパターンも新聞で読みました。
意思がわからない高齢者に変わって拒否は難しい
胃ろうをするかしないかについて、認知症が進んでいれば、本人が状況を判断できず、家族が代言せざるを得ません。もし、身体機能に余力があるまま胃ろうを拒否してしまうと、日々やせ細っていく高齢者を見守り続けなければならない、苦しい状況になります。
家族の悩みを和らげるために、高齢者が元気なうちに治療方針をあらかじめ書面で残しておく、【事前指定書】や【リビングウィル】があります。だた、これもどうでしょうか?現実、終末期の医療の問題点を理解している方でなければ、事前指定書を書くという行為に至らないのではと、個人的には思います。新聞や雑誌で啓もう活動は盛んではありますが、疑問が残ります。
医療行為だけでなく、もっと広い意味で自分の終末期の在り方を記載した【エンディングノート】なども、最近話題になってきています。エンディングノートで自由に自分の終末期を記述しながら、医療についてもついでに書くといった過程を踏む方が書きやすいと考えます。
いずれにしても、人工栄養の判断を迫られた家族の苦しい胸の内を、多くの人が知らなければなりません。事前指定書やエンディングノートを書くことが、普通になればと期待します。
法に触れないのかという懸念
2006年に富山県の射水市民病院で、入院患者の人工呼吸器が取り外され、7人の患者が死亡していたことが明らかになりました。この事件を契機として厚生労働省は、2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を作成しています。指針として、「本人の意思決定を基本に、多職種から成る医療・ケアチームで治療方針を決める」と書かれています。
しかし、法律的にはどうなのかという問題に関しては、きっちりと決められていないようです。刑法にある【保護責任者遺棄致死罪】が、胃ろうを本人に代わって拒否する行為に該当するのではと、不安になる方もおります。かかりつけ医も同様にこのことを不安視すれば、いくら家族が声を大にして人工栄養拒否を訴えても思うようになりません。
老衰に至るまでの経緯を家族は知る
高齢なればなるにつれて、食べる量が驚くほど減っていきます。同居していると、この段階で慌てるのですが、ある程度はそういうものだと割り切るべきです。私の家のことですが、母は量が多すぎたり、消化が悪いものを食べると、すぐに下痢をします。そのたびに、食事の内容や量を見直してきました。
老衰の終末期に無理に胃ろうなどで栄養を送り込んだとしても、栄養液などが逆流して誤嚥性肺炎になります。吐き戻した栄養液で、窒息事故にもつながります。点滴を使用したとしても、心臓に負担がかかるだけです。
飲み込む力が弱くなった高齢者が誤嚥性肺炎は、必要以上に食べさせたために起きるのだそうです。
高齢者自身が食べれる量を、たとえわずかであっても、無理なく食べ続けることです。自然に任せればやがて、眠る時間が長くなり穏やかに息を引き取っていくといわれています。無理に食べさせれば、体の負担が増し苦しみにつながっていきます。
2012年日本老年医学会は、終末期での胃ろうなどの人工栄養や人工呼吸器をつけない、あるいは中止する選択肢もあるとガイドラインを改めました。
ただ、目の前の高齢者が果たして、終末期なのかそうでないかの判断については、非常に悩ましいところであります。介護してきた人がわかる感覚であったり、終末期の患者と付き合い続けた熟練医師のカンとか、そういったところに頼らざるを得ないのかもしれません。
人工栄養期間を経て、口から食べるためのリハビリや訓練の方法が明らかになってきています。この点についても、少し調べてみましたので、次回お知らせしていきます。
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