糖尿病と腸内細菌の関係があきらに
生活習慣病が原因とされている2型糖尿病患者は、腸内細菌のバランスを乱していることが分かってきました。
糖尿病はいうまでもなく、食べ物から吸収した糖分がエネルギーにならずに、血液中に多く存在する病気です。毎年の健康診断で、血糖値のおろおろしている方も少なくありません。
血液中の糖の量を調節するのは、膵臓から分泌されるインスリンです。その原因がはっきりしない1型糖尿病とは異なり、2型糖尿病は生活習慣病が原因とされています。
2型糖尿病の発症経路は、2つ。インスリンの分泌量が少ないこと、或いは、インスリンの分泌量は正常であるにもかかわらず、効きが悪い状態のいずれかです。
インスリン抵抗性の方の血液に、腸内細菌がいた
インスリンの効きが悪いことを、インスリン抵抗性と呼ばれます。
糖尿病を発症していないインスリン抵抗性の方の血液を、調査したところ、腸内でしか生息していないはずの腸内細菌が発見されました。この腸内細菌が、体内で炎症を引き起こしている可能性があるそうです。
肥満やインスリン抵抗性が起きる原因は、脂肪組織、肝臓、骨格筋などのインスリンが作用する臓器の慢性炎症といわれています。腸内細菌の炎症も、関係しています。
血糖値コントロールが良好な人の腸内には、善玉菌が多い
米イリノイ大学では、45~75歳の男性116人を対象に、1年間の血糖コントロールと腸内細菌について調査しています。
血糖コントロールが良好なグループには、腸内細菌が多くみられ、中でも体に良い働きをする善玉菌が多いことが分かりました。一方、血糖コントロールが悪いグループの場合は、腸内の善玉菌が少なく悪玉菌が多いことが判明します。
血糖値と腸内環境には、関係性があるといえる研究結果です。
糖尿病予防は、腸内環境を整えることから
最近の研究では、腸内細菌を増やして、糖尿病を予防する方法があります。腸内細菌の中でも、血糖値を下げる善玉菌の候補も見つかっています。(Akkermancia, Faecalibacterium, Bifidobacteriumなど)
これらの善玉菌が、腸のスイッチを押し、インスリンの分泌が増やすそうです。
腸内細菌を増やす方法は、運動、食事などがありますが、もうひとつ斬新な方法として便移植があります。各々について詳細します。
便移植
便移植とは、想像されているとおり、かなりショッキングな情報です。別名、便微生物移植とか糞便移植とも言われています。
健康な人の便には、糖尿病に良い善玉菌をはじめ多くの腸内細菌が住んでいます。ならば、『健康な人の腸内細菌を、血糖値コントロールが不良の方の腸内へ、引越しさせてしまえばよい』という考え方です。
便移植は、日本では2014年3月に過敏性腸症候群の治療のために、東京大学で初めて行われました。健康な人の便を医療用の整理食塩酢に溶いて越します。液体の方を、300gほど注射器に入れて、内視鏡を使って大腸内に散布します。
今日では、便秘や腸の病気の治療で行われていますが、今後、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、多発性硬化症、パーキンソン病などにも広がっていくと、予測されています。糖尿病が期待大でしょう。
深刻な副作用の報告はありません。ただ、腸内細菌は、人間の体質をも決めています。病気だけではなく、性格を決めているのです。
他人の腸内細菌を移植することは、思わぬところの変化が現れるかもしれません。アメリカでは、娘の便を移植したところ、肥満体質まで移植されて体重が増え続けたという報告もあります。
運動
米コロラド大学の研究チームでは、若いころからウォーキングなどの運動を行い続けることで、腸内フローラーが健康になると発表しています。
腸内に便が長くとどまることは、善玉菌を減らし悪玉菌を増やします。増えた悪玉菌が、腸壁を通り血管に流れるともいわれています。インスリン抵抗性に関係する悪玉菌であれば、糖尿病の引き金にもなります。
有酸素運動は、副交感神経を優勢にして血行を良くします。腸は特に自立神経と関係が深く、副交感神経が優位な時に良く動くとされています。有酸素運動により、大腸の蠕動運動が活発になり、腸内の便が押し出されて便秘を予防します。
仕事などでストレスを強く感じているときは、腸にも刺激が伝わり、腸内環境に悪影響を与えます。運動は、ストレスを感じるほどハードなものではなく、余裕のあるウォーキングが良いとされる所以は、この辺にあるようです。
腹筋などの無酸素運動も、大腸を動かす平滑筋を鍛えて、大腸の蠕動運動をしやすくさせます。いずれにしても、運動は便秘を予防し、腸内細菌に良い影響を与えます。
食事
腸内環境を整えるという名目で、水溶性食物繊維や難消化性デキストリンを配合したサプリメントを見るようになりました。
食後に急に血糖値が上がることは、インスリン抵抗性を引き起こします。食物繊維は、ゆっくりと腸内を移動するために、糖の吸収スピードを押さえることができます。
また、古い便は、悪玉菌を増やします。食物繊維は、腸壁の便をからめとる作用があるので、古い便が残ることがありません。
こうした食物繊維の働きの他に、食物繊維が腸内細菌の餌になっています。腸内細菌のエネルギーは、炭水化物です。炭水化物を食べた腸内細菌は、人間の体に良い物質を作り出します。
が、炭水化物がなくなると、タンパク質を餌にします。タンパク質を食べた腸内細菌は、体に良くない物質を作り出します。便秘の始まりです。
炭水化物を大腸にいる腸際細菌に届けるには、普通のブドウ糖では無理です。大腸に届く前の小腸で、その大半を吸収されてしまうためです。小腸で消化されにくい炭水化物は何かとなると、食物繊維になるのです。
昨今注目されている難消化性デキストリンは、90%が小腸での吸収を逃れて大腸に届けられるそうです。しかも、小腸で吸収される糖のスピードを押さえることもできます。
食物繊維は、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維に分かれていますが、食物繊維の餌になりやすいのは水溶性の方です。
水溶性食物繊維を多く含む食品は、寒天、ひじき、切り干し大根、キウイ、バナナ、りんご、ごぼう、らっきょう、オクラなどです。
スポンサードリンク