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MCI(認知症予備群)の判断方法が続々と現れた

高齢者に身体的・心理的な負担をかけず判断

脳の画像診断など医学的な方法を使わずに、MCIを早期発見する技術が現れています。臨床経験を積んだ医師の書籍や、大学病院、大学の研究室から発表されたものをピックアップして紹介します。

いずれも高齢者の身体的・心理的な負担をかけない方法であることが特徴です。

核家族化が進み、独居高齢者は増える一方です。今までは高齢者のおかしい行動を家族が発見していましたが、誰にも気づかれることなく認知症の進行が放置されてしまう懸念があります。認知症は誰でもかかる病気であるあらば、気軽に客観的にMCIの診断できる機会がなければ困るのです。

早期にMCIを発見することができれば、食生活を見直したり、運動を始めるなど生活習慣を改善できます。予防を積み重ねれば、認知症の発症率を遅らせる例が多いからです。

書籍

脳神経外科医のクリニックの院長が、臨床経験からMCIかどうかの判断方法をまとめた書籍『MCI(認知症予備群)を知れば認知症にならない!』があります。

血液検査やクイズ形式のテストというより、日常の様子や会話の中から判断する方法です。医師というより、身近な家族が高齢者のMCLに気づく方法に、重点が置かれていました。

MCIを判断する手がかりは次のことです。

  • 良性健忘と悪性健忘
  • 時事ネタの近似記憶
  • デフォルトモードネットワークの繋がり

スタンドの下の書籍

良性健忘と悪性健忘

認知症は単なる物忘れとは違うといわれていますが、単なる物忘れは良性健忘といい、認知症のそれを悪性健忘と呼んでいます。例として、ランチで何を食べたのか忘れたのが良性健忘で、ランチを食べたかどうか忘れてしまうことが悪性健忘です。悪性健忘がMCIです。

物忘れを良くするとぼやく親がいれば、話の内容から良性や悪性かを判断できます。ただ、悪性の場合は忘れていることも気が付いていないことが多いので、自分から話題を提供することはありません。会話の内容を工夫して、状況を探ることになります。

時事ネタの近似記憶

認知症の記憶は最近起こった事柄から失っていき、これを専門用語で近時記憶と呼ばれています。近似記憶の有無で、MCIを判断します。

筆者の奥村医師は、時事ネタに興味があるかないも判断できるといいます。実体験や、愛する家族の事、趣味等は、MCIの方でも感情が伴うので記憶に残ります。自分の身の回りの別の次元のこと、ニュースや時事ネタは、自らが体験した事象ではないものは覚えていられません。もし、心が揺さぶられない政治情勢のような話題をスムーズに話せれば、MCI(認知症予備軍)の疑いはありません。

感情が揺さぶられれば記憶に残りやすい理由として、脳の記憶をつかさどる海馬が扁桃体と呼ばれる快・不快を識別する感情の中枢があるためです。感情が揺さぶられる時、偏桃体が助けて海馬に記憶させています。

デフォルトモード・ネットワーク

デフォルトモードネットワークとは、何もしていないでぼぉーっとしている時の、脳の中の働きです。本来人の脳は、行動している時や考えている時のみ活動し、それ以外は休むと考えられてきました。しかし、何もしていない時でも脳の中では、ネットワーク間でやり取りをしていることが分かったのです。

このデフォルトモードネットワークの繋がりは、アルツハイマー型認知症の人は、早期にからこのネットワークの異常が見られるので、早期発見に結び付けられるのです。こちらは、MRI画像診断で行われるようです。

現在奥村氏はMCIの予防として、1日5分でもボォーッとしている時間をとろうと呼び掛けています。

血液検査

血液検査で認知症を診断する研究が、色々な場所で行われています。下記、最初に書いた筑波大学のものは、既に医療現場で使われています。

アミロイドβを排除するタンパク質の濃度

筑波大学発スタートアップが始めた、MCI診断は血液検査です。血液は15ミリリットル採取、料金は保険適用はなく2万円、検査結果が分かるまで2週間の期間がかかります。

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アルツハイマー型認知症の発症する仕組みの一つに、アミロイドβが脳の中に溜まることにあります。アミロイドβが神経細胞を破壊して発症させます。

採取した血液中から、アミロイドβを排除する機能を持つ3種類のたんぱく質の濃度を測定します。これでMCIのリスクがわかるといいます。

リスクの判定は、4段階。A=ほぼリスクゼロ、B=低め、C=中程度、D=高めです。あくまで認知症予備軍のリスクを判定するもので、認知症の診断を下すわけではありません。それでも、CやDの判定が出れば、画像診断などの精緻な検査を受けることを勧められます。

アミロイドβの蓄積を調査

国立長寿研究センターと島津製作所は、アルツハイマーの原因物質といわれるアミロイドβの脳内蓄積を調べる検査法を、2018年に報告しました。今年(2020年)から、無症状やMCIの人も含めた50歳以上の男女200人を対象に、この検査法と陽電子放射能断層撮影装置・PET(脳の画像診断法)を比較し、精度を確かめる臨床研究を始めました。

タウというたんぱく質の蓄積を調査

量子科学技術研究開発機構と東レは、タウというたんぱく質の脳内蓄積度を調べる技術や、レビー小体型認知症の指標となる微小物質の分析などの開発に取り組み始めています。

ハイテクを駆使した簡易検査法

ゲーム感覚でテストに答えたり、自然な会話内容を人工知能(AI)で分析したり、目の動きを追跡して認知機能を検査したりと、ハイテクを駆使したMCIの診断技術が次々と発表されています。

アルツハイマー型でのMCIの検査である、脳に蓄積するアミロイドβを陽電子放射能断層撮影装置・PETや脳脊髄液の採取などは、費用や患者の身体的負担がかかるのが難点です。検査を受けるのを、つい尻込みします。高齢者に身体的・心理的な負担をかけず判断が可能であれば、より多くの人が気軽に検査を受けられます。ハイテクを使って、簡易検査法の研究が続けられています。

足踏みしながらクイズに回答

大阪大学産業科学研究所の八木康史教授らは、高齢者に足踏みをしながらクイズに答えてもらうという、認知機能計測機能を開発しました。認知症の人は、2つの課題(デュアルタスク)を同時に遂行する能力が非常に低いことから、あえて、足踏みとクイズを組み合わせています。

高齢者施設で、次のようなことをやってもらいデータを集めます。クイズの正解率や足踏みのペース、膝の上がり具合など12種類の特徴量を手掛かりに、認知機能を推定するアルゴリズムを導き出しました。

被験者は足踏みをしながら、前方のディスプレーに表示される簡単な計算問題などのクイズを見て、手すりにあるボタンを押して回答します。このデュアルタスクの他に、歩くだけ、クイズに答えるだけの2つのシングルタスクを実施します。足踏みの様子は、ビデオ撮影で収録しておきます。

足踏みをしながらクイズに答えるMCIの発見率は、現在、医療機関で認知機能検査に使われているMMSE(ミニメンタルステート検査)のスコアを、90%はカバーできたそうです。

自然な会話を分析

データ解析のフロンテオ(東京)では、高齢者の会話をAIを使って解析して認知症の診断を支援するシステムを開発しました。患者と医者との間で交わされる5~10分の会話から、適切な受け答えができているかを自然言語処理技術で解析、認知機能障害の有無を判定します。

MMSEの検査は質問内容の傾向が決まっているために、繰り返し検査を受けるうちに被験者が覚えてしまって、正確な判断がしずらい欠点があります。日常会話を分析するフロンテオの手法は、こうした問題を解決できます。

目の動きを解析する

大阪大学大学院医学系研究科の武田朱公准教授らの研究グループは、目の動きを追跡する技術を使った認知機能検査を開発しました。

モニターに同じ形の図形を探すといった課題が表示されます。これを追う被験者の視線の動きが記録され、政界を見つめる時間が長いほどスコアが高くなります。

この検査結果は、MMSEなど従来の検査スコアと強く相関することが確認されました。

当記事は、2014年の記事を2020年9月現在の情勢に合わせて改定しています。

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