介護ロボットパロを各国の使われ方を見る
前回、介護ロボット・パロの概略を書きましたが、今日は、具体的にどのような試みが行われているのか調べてみました。国内でも外国でも、施設でも家庭でも、パロを使用することで見られた効果が発表されています。
下記のパロ導入による臨床結果の内容は、先日(2013年6月29日)行われた、第3回「アザラシ型ロボット・パロのによるロボット・セラミピー研究会」のものを抜粋したものです。
(参照URL:http://intelligent-system.jp/paro-therapy3.pdf)
アメリカでは
アメリカでは、転倒防止会議において、認知症高齢者がパロとふれあうことで不安を低軽減しています。抗精神病薬などの利用を減少するとともに、転倒リスクが低減することが発表されています。
ニュージランドでは
ニュージランド・オークランド大学では、高齢者向けの療養所と病院で、20名ずつ、パロを触れ合いのあるグループとそうでないグループに分け、結果を比較しています。
認知状態、孤独感、うつ、生活の質(QOL)を評価基準としたところ、孤独感を減少させることができました。
オーストラリアでは
オーストラリア・グリフィス大学でも、中度から重度の認知症をランダムに選択し、RCTによる臨床評価を行いました。その結果、認知症高齢者の生活の質(QOL)と喜びが向上しました。
富山県では
富山県南砺市は、医療機関と地域包括支援センターが連携して、在宅介護での家族の介護の負担軽減化を図れるかどうかの、実証実験を開始しました。
神奈川県では
神奈川県では、今年(2013年)度から、「かながわ福祉サービス振興会」が研修会を開催して、パロの認知度を広めています。この研修会の修了者がいる施設に対して、約3週間の無償試用支援が始まっています。
県内10施設、83名を対象に行われたロボット・セラピーによる、臨床実験が行われました。その結果、心理的効果、生理的効果、社会的効果が確認されています。
特に、認知症患者に関しては、情緒不安定の軽減、徘徊の抑制などの周辺症状の改善事例や、脳活動の状態の改善が報告されています。
実験結果のデータは80名分で、うち23名が症状を回復できたことが確認でき、中でも7名の不安・焦燥の症状、2名の暴言・暴力の症状、2名の抑うつ症状が落ち着いたということです。
仙台では
仙台にある、葉山デイサービスセンターでは、東日本大震災で被災した方が、6名ほど避難しています。この6名は、強い不安・ストレスなどが見られていました。
導入効果として下記のような点が挙げられ、職員の負担軽減につながったとあります。
- 余震のたびに不穏状態になった利用者が落ち着いた
- 徘徊行為の軽減
- 失語症の緩和
- 発語の促進
- 以前の生活を取り戻す効果
- 家族との会話や交流への話題提供
ツクイでは
多くの介護施設をもつ「ツクイ」で、デイサービス、有料老人ホーム、グループホームの3つの異なる現場で得られた臨床結果が発表されています。
その際、複数の評価ツールを使用し、臨床心理士の所見も参考にしています。
ディサービスでは、居室内で布団から降りて、床で寝ているということがあった要介護5の男性の症状が消えました。また、毎日のように夜間徘徊が行われていた、要介護3の女性も、朝までゆっくり就寝をおこなえるようになったそうです。
福寿園では
神奈川県の特別養護老人ホーム 福寿園では、ユニット毎にグループ分けを行い、入居者の変化を見ました。
その結果、調査対象者71名のうち、2ヶ月間にNMスケールが改善され続けた方が9名、また悪くなられた方が8名、DBDスケールでは5名が改善され、9名の方が悪くなられたということです。
また、2つの事例紹介していました。
頑固で人の話を聞こうとしない性格で、苛立つと机を小刻みにたたき一層興奮する女性のことです。夕方は、不穏になり、服薬介助や排泄介助では拒否したり、弄便することも多かった方だそうです。パロを渡すことにより、精神的に安定でき興奮することなく、介助ができるようになりました。
床づれががひどく、昼夜逆転気味で夜間になると大声て独り事や暴言を、発することがしばしばあった方も改善しています。パロと触れ合うことで、職員への話しかけも頻繁に行えるようになり、童謡を1曲歌えるようになりました。嚥下障害があり鼻からチューブを入れる食事でしたが、パロを傍らにおいて生活を行ううちに、実証終了時には「ゼリー食」を食べられるまでになったそうです。
福寿園では、全てが良い結果となったわけではないにしても、今後職員の介護負担軽減と、高齢者の生活の質の向上に期待したいと言っています。
ニチイホームでは
ニチイホーム練馬高野台では、要介護1・2・4・5の方にパロを渡しその効果を報告しています。
要介護5の方は、人工透析を行なっている方です。特に透析の前夜など、不安症状が出てナースコールが頻回になることが多かったそうです。夜勤者が、その都度訪室して対応をしていましたが、そうした時にパロを連れていくと、脇に抱えて一緒に過ごされると落ちつきました。また、日中も嫌なことがあり不穏気味になられた時も同様で、「こいつは助けてはくれないが、慰めてくれる。」と話されたそうです。
パロを導入することで、何年も接してきたのに見られなかった入居者の一面を知ることができたとあります。『不安症状の癒しや介護負担の軽減から機能訓練の効果まで、数値的にその効果を表すことは難しいけれど、言語の介護の幅が広がることを期待します。』と締めくくられていました。
回復期リハビリテーション病棟では
回復期リハビリテーション病棟では、122名中、良好な反応が得られた患者は30名、拒否なしは23名、不快な反応は3名、関心なしは66名という結果が出ています。
うち良好な反応を示した方は、女性が多く、脳卒中や認知機能が軽度に傷害されている傾向にある方です。
あまり自主性のなかった方が、パロを撫でたりして、自発的な行動を促すことができる可能性を発表しています。
リハビリテーションにおいて、自立支援を促す効果があり、今後使用目的に応じた関わり方など、より専門的に活用できる講習会の開催などを取り組み必要性があると提言しています。
在宅では
在宅でパロを使用した場合の事例も3例紹介しています。
1件目は、本人が不穏になりやすい時間帯に、パロを横に置くと、落ち着いて主体的な時間を過ごすようになりました。
2件目は、パロに関する話題や、パロから連想する話(昔会った白い犬の話)などの思い出話に発展して、話題が拡大しました。介護者にとっては、生活上必要事項の確認や指示を出したばかりという罪悪感が減ったそうです。
3件目は、仮眠状態が続く生活を送っていましたが、覚醒レベルを高め主体的で楽しい時間を過ごすことができたとあります。介護者にとって、多忙な生活の中で本人と接する時間を割くことが難しかったが、罪悪感が軽減したと言われています。
通所施設では
通所施設においても活用例が紹介されています。
帰宅願望や徘徊が生じにくくなり、送迎バスが落ち着いて待てたり、主体的に動いたことがなかった人がバロに手を伸ばして赤ん坊にするように優しくなでたりする場面が見られました。帰宅時は、トイレ誘導や見送りに影響され、落ち着かない雰囲気になりがちだったのに、トイレや送迎バスへの誘導を、心の余裕を持ってできるようになったそうです。
私が思うに
ちょっと、とぼけたアザラシのぬいぐるみの存在を、認知症で悩んでいる本人も家族が知るところとなりました。後は、価格ですよね。10万円以下になれば、一般家庭でも購入しやすいので、どんどん認知度が高まって、大量に生産され安くなることを期待します。
スポンサードリンク