嗅覚は嗅覚刺激法で回復できる人もいる
”認知症の方のほとんどは匂いがわからない”という説が出回り、「匂いがわからない=認知症」という誤解が生まれました。金沢医科大の三輪高喜教授(耳鼻咽喉科)は、匂いがわかない方に関して、神経疾患とは無関係の患者の方が多いといいます。同大を受診する嗅覚障害患者のほとんどは、副鼻腔炎や感冒後嗅覚障害です。過去、9年間の間、患者約1600人のうち、神経性疾患の方は10人に満たなかったそうです。
だた、認知症と全く無関係でもありません。アルツハイマー病や孤立性パーキンソン病の初期症状に、嗅覚障害が現れます。アルツハイマー病は、脳の記憶をつかさどる海馬の萎縮によって記憶障害が起きます。海馬の萎縮より先に、海馬と同じ大脳辺緑系にある嗅神経がダメージを受けることがわかってきました。
症状としては、匂いがわからなくなった後、徐々に忘れっぽくなってきます。匂いがわからない段階で、嗅神経を回復させられれば、認知機能の改善もありと唱える医師もおります。
最初に書きましたが「匂いがわからない=認知症」に、当てはまらない人の方が多いのが現実です。認知症への関心の高さから、何もかも認知症に結びつけて、鵜呑みするのは最近の悪い傾向です。嗅覚を鍛えることは、認知症予防とゆるく関連しているものの、これを主軸に語るのはどうかと。
匂いがわからないことは、ゆるく認知症とも関係しています。「匂いがわからないから、アルツハイマーになる』と恐れるのではなく、老化防止の一環として嗅覚の回復を試みたいところです。
匂いがわからないことの生活上のリスクは抑えておく
匂いがわからなければ、食事の風味や味が楽しめませんし、お茶やお酒などの嗜好品で気分転換やリフレッシュができません。散歩に出かけても花や新緑の香りがわかりません。フレグランスでのオシャレもできません。女性ならスキンケアをする際、化粧品の香りで癒されることもありません。
こんなことが続けば、食事に関心がなくなり、生活にハリを失ってしまいます。これって、フレイルのリスクが高まることになりはしませんか?フレイルとは、要介護になる前段階の心身の衰えを言いますが、精神的要素も関わっているのです。
匂いは、楽しませるだけの役割だけでなく、生活の中での危険を回避する役割もあります。腐った食べ物をそのまま口にしてしまい食中毒を起こしたり、ガスの匂いがわからず一酸化炭素中毒になったり、焦げた匂いがわからず鍋を焦がしたり、最悪、火事に巻き込まれたりする可能性だってあるのです。
嗅神経の訓練とは
嗅神経の回復は、匂いを嗅ぐ訓練をして嗅覚を鍛えます。
臭神経細胞を刺激すれば、つながっている大脳皮質や海馬も刺激され、アルツハイマーにも良いのではという話題がありました。2017年に書いた記事ですが、昼と夜と交互に異なるアロマを嗅ぐことで、失われていた嗅覚の回復が期待できる説です。
現在多くの医療機関では、生活の中で意識して匂いを嗅ぐように指導したり、漢方薬の処方で対応しています。欧州では、「嗅覚刺激療法」が行われています。1日に何度か、数種類の決められた匂いを嗅ぐ訓練をします。動物実験では、有効性が認められ、人への有効性を示唆するデータも出始めたそうです。
高知大学医学部の奥谷文乃教授(耳鼻咽喉科)によれば、小瓶に詰めたチョコレートやラベンダーなど4種類の香料を用意し、1種類につき10~15秒ずつ2度匂いを嗅ぎます。これを、朝と晩に行う。「お香をたく時のように、一つのにおいを嗅ぎ続けるのではなく、短い時間で異なる匂いを嗅ぐことが大切」なのだそうです。選ぶ匂いは、刺激臭でないことと、嗅ぐときに「●●の匂いだ」と意識することがポイントです。
奥谷教授は、「刺激すれば一定程度、回復する人もいる。この訓練による害はなく、今後期待できる治療と考えている」と話します。
嗅覚障害の原因とは
匂いは、呼吸で取り込んだ空気や食事中のにおい成分が、嗅粘膜の受容器官に付着し、その刺激が嗅神経を通って、脳に伝わります。
匂いがわからなくなる原因は、風邪で嗅粘膜の受容器官が壊れたり、年を取って受容器官が減ることで嗅覚障害になります。また、アレルギー性鼻炎のように物理的に、鼻が詰まってわからなくなることもあります。
【参考資料:2018年12月5日朝日新聞】
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