数に限りがある老人施設の建設だけで、介護離職はゼロになるの?
年間10万人とも言われている介護離職者、しかも、その中で4人に1人は、課長クラスの役職者であると言います。各々異なった職を抱えた介護者に合わせた、介護サービスは無理なのでしょうか?
世界で最も早く家族介護者の支援策を打ち出した、イギリスの介護法(1996年施行)について記述してみます。
私がイギリスの介護者支援の動きを調べて、特に言いたいのは、現在の介護離職ゼロへの政府の施策です。特別養護老人ホームなどの介護施設を増やすと新聞にはありましたが、在宅で介護する人が多ければ多いほど、国の予算は助かるのではと思うのです。
在宅の介護者支援への国としての政策を、日本もとりかかるべきではないのでしょうかねー。
レスパイトケアの必要性と、他の国でのレスパイトケアについては、こちらで説明しています。
無償の介護者の声に耳を傾ける、イギリスは素敵だよね
イギリスでは、無償の介護者のことをケアラーと呼んでいます。こうしたケアラーの9割は、アセスメントや定期的なレビューを受けて、介護者のQOL(生活の質)の低下を防ぐ試みがなされているのです。また、自分に適したレスパイトケアや、介護のための情報を得るためのサービスも受けています。
ちなみに、レスパイトケアとは、高齢者などの要介護者を在宅でケアしている家族の精神的疲労を軽減するため、一時的にケアの代替えを行うサービスのことをいいます。欧米で生まれた考え方であり、地域支援サービスの一つとして広まりました。日本においては、1976年ショートステイとして導入されています。
イギリスの介護者支援の歴史は50年前から始まり、1965年に民間の介護者団体が発足されます。次々に、その数は増え、各団体が連携して運動を展開しています。法的には、1976年に介護者のための福祉手当が、制度化されて、次々と支援策が打ち出されていきました。
1999年からの介護者戦略10年計画
1999年には、「介護者(ケアラーズ)のための介護者戦略」が10カ年計画として、打ち出されます。具体的な、政策は9項目。
- 自治体が介護者ニーズを取り入れる
- ケアに従事した期間を、国の年金期間に算入
- 2050年度までに介護者に、現金支給できるように提案
- 高齢者の介護者には、地方税の減額
- 近隣サービスの体制作りの援助
- 介護者が職場復帰の支援拡大
- 介護者に関する情報収集の徹底
- 若年介護者の登校支援
- 介護者の休息のための特別予算
2008年からの介護者戦略10年計画
2008年6月には、次の10カの国家戦略が打ち出されます。具体的な提言は、6項目。
- 介護者は、尊厳と尊重をもって扱われる
- 介護者は、必要に応じてサービスを受ける権利がある
- 介護者の生活は、守られる必要がある
- 介護者に財政的な困難が、生じないように支援を行う
- 介護者の精神、身体状況は健全であるように対応される
- 若年介護者は、不当なケアから保護される
現在の介護者支援サービス
現在の介護者支援サービスは、介護者がアセスメントや要望を元に、提供サービスが振り分けられます。大きく分類して3項目。
- 介護者手当として所得補償:
週50ポンドを支給(16歳以上、介護時間が週35時間以上で、週95ポント以上稼いでいない事が条件) - 介護者自身のサービス:
介護者の休息、介護者が夜間眠れるための見守りサービス、教会・病院・美容院・映画などへ行く時の時間の保障 - 要介護者へのサービス:
介護者の派遣、ディサービス等
イギリスの介護アセスメントの状況
日本の場合、介護サービスを選ぶ手掛かりとして、要介護度の分類がありますが、イギリスにはこうした制度はありません。要介護2とか、要介護3とかの指針がありませんので、逆に個人個人の状況から判断するため、介護提供者はそれだけ難しくなります。
イギリスでは、ソーシャルワーカーと作業療法士が所属する『社会サービス部』が、要介護者のニーズを聞きとり、介護サービスの提供を行います。この聞きとりの際に、確認用のチェックリストも整備されています。
イギリスの介護サービスは、国、地方自治体、民間非営利組織のサービスの3つに分かれていますが、地方自治体が提供するサービスを受けるためには、社会サービス部が行う、介護ニーズに関するアセスメントを受ける必要があります。その後、要介護本人のニーズと利用可能なサービスとを、組み合わせて介護プランをたてます。この時に、介護者自身もアセスメントを受けることが可能です。実際に約9割がアセスメントと定期的なレビューを受けています。
アセスメントの結果を受けて、要介護本人のサービスと、介護者のレスパイトサービスの支給が決定されるのです。(介護者戦略10カ年計画に記述した内容の事)
このアセスメントとケアプランの見直しは、サービス開始3カ月後か、状況が変化した時。それ以降は、毎年1回となっているようです。
介護におけるアセスメントとは
査定とか、事前影響評価の意味を持つアセスメントは、介護分野では、提供されるサービスが利用者にとって、最適であるかどうかの判断を行うことをいいます。
個々の利用者の求めていることや、家屋の状況、身体的な状態、精神的な問題などを判定して、本当に必要な支援であるか否かを評価しなくてはなりません。利用者を介護する家族も、提供されるサービスによって、自らの生活を健全に保ち続けることができるのか、経済力、健康、精神力共に破たんすることはないか、否かの評価を行う必要があるのです。
要介護利用者が受ける介護サービスは、在宅介護者のキャパシティに合わせて、提供できるように調節を行わなければ、長期間介護を行い続けることはできません。
介護者自身によるセルフ アセスメントでサービスを知るツール
介護者アセスメントは、地方自治体の介護者支援サービスを受ける場合と書きました。国、地方自治体、民間非営利組織の介護サービスを選ぶことができる、セルフアセスメントの開発(CSA)が行われました。
CSAとは、介護者が各々のサイトを訪れ、各質問項目に回答を入力することで、提供されている介護支援サービスの情報を知ることができます。このことにより介護者は、より広い支援団体から適した介護支援を、受けることが可能になるのです。
国のアセスメントは、介護者の健康状態についてのアセスメントと、経済的支援についてのアセスメントに分かれています。いずれも、サイトにある質問に回答した後、支援団体などの情報が貰えるようになっています。
民間非営利組織においては、特に介護者がおこなっているケアの期間、時間量、ソーシャルサービスの利用の有無などの質問があります。さらに、各ケア項目に基づいて、継続可能か否が、ケアの頻度と困難な程度などが記述できるようになっています。そのケア項目数は、12項目(投薬の手伝い、精神的支援、金銭管理、経済的支援、安全確保、危機管理、問題行動の対応、運転・移動、攻撃・暴力・虐待、個人的なケアの手伝い、直接的なケアの手伝い、在宅での小規模な医療行為)と、きめ細やかです。
地方自治体においても、CSAを導入して、細部に渡っての質問項目が設定されています。特に、16の支援と助言メニューは、素晴らしいと感じます。(数日もしくは数週間のレスパイト、数時間のレスパイト、介護機器の活用、テレケア(遠隔治療)、直接的な介助支援、住宅施設、日常的な家事援助、ガーデニングや住宅修繕の支援、被介護者に対するディサービスの提供、配食サービス、給付や金銭的な助言、会話相手、他の介護者との関わり、ケアに関する知識や技術の助言や訓練、健康に関する情報や助言、訓練や就労の機会)
現在、日本における介護サービスや、介護者のレスパイトケアで、補うべき点などを考える手がかりになりました。
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