現状の介護離職対策と私の提案
政府は2020年までに介護離職者をゼロと宣言していますが、年間約10万人が介護を理由に会社を辞めています。2012年の介護離職者の傾向は、女性が8割、約50代が4割が占めています。
その背景には、少子化、都市型雇用、介護施設や介護職員の不足、高齢化などが考えられます。社会状況から手に負えないとせずに、介護離職防止策は広まってきています。
介護離職防止への対応
介護離職をせざるを得ない理由は3つ。時間的な制約、介護制度の情報不足、介護疲れなど精神的苦痛があげられます。時間的制約や介護制度の情報不足に関しては、数少ないとはいえ徐々に対策が出されていますが、精神面でのフローは今一つです。
現在の介護離職防止策について、まとめてみます。
時間的な制約への打開策
時間的制約の中には、寿命の個人差の問題と、遠距離介護による問題が含まれています。現在の打開策は、ほんの一部のケースのみを想定していて、多くの人を助ける手段とは言えません。
政府の介護離職打開策
政府では、家族1人の家族につき93日まで取得できる介護休業を、3回に分けて取れるように改正しています。さらに、介護休業の1日単位を、半日からとれるようになりました。
介護休業の93日は、介護環境を整える期間とされ、実際介護に携わる期間ではありません。介護は育児とは違うということから、介護休業の短さを非難する声があがったことへの反論です。(育児休業との違いは、後で詳細)
介護休業の93日の数値には、暗に、介護施設利用し、介護される家族が近隣にいることを想定しています。自宅で介護する場合や、遠距離介護者には想定外です。
言うまでもなく、現在の雇用体系は、地方に親を残し、都市で別世帯を持つ方が大半です。地方で暮らす親が倒れた場合、一人暮らしであったり、農業など自営であったりして、地方で暮らざるを得なくなる方もいます。
私の案は、特別養護老人ホームの入居基準に、介護離職救済枠を作ってはどうかということです。生活のすべてを任せられる老人ホームは、どんな介護離職防止策より最強です。
老人ホームの入所基準の要介護の度合いと同じ重みが、介護離職にはあるように思えます。入所できなければ介護離職をせざるを得ない証明書を作り、職場の上司などの印や状況説明を記述してもらい提出するというのはどうでしょうかね。
企業の介護離職打開策
介護離職が企業の及ぼす影響も大きく、防止策を打ち出しているところもあります。
家庭用品大手のライオンでは、2017年に介護休業を365日に引き上げました。さらに、短時間勤務制度にフレックスタイム制度を組み合わせた、『ショートタイムフレックス』制度も整備しています。電子機器メーカーのオムロンでは、介護休業を365日取得の可能と、介護相談窓口を設置しています。
転居を伴う転勤がある企業のうち、84%は家庭の事情を踏まえて転勤に関する配慮を社員が申し出る制度や機会を持っています。
ライオンの『ショートタイムフレックス』制度は、自宅介護向けで、他社も真似してほしい制度です。実際、よほど容態が重傷でなければ、まとまった時間はそう必要ありません。短時間を小刻みに沢山ほしいのが本音です。日にち単位の休業の前に、検討すべきは、時間の選択肢がある短時間勤務制度を望みます。
介護制度の情報不足
介護離職者の中には、介護制度を知らないために、離職せざるを得ない方もいます。高齢者の相談窓口で知られる地域包括支援センターは、介護者の職場環境や家族構成を考慮してくれません。
多くの介護サービスを紹介されても、未経験な領域で具体的なイメージが得られず、利用に踏み切れないといったところでしょう。介護制度の本やサイトも見ますが、膨大なページで、働く人が読み解くには時間が足りません。
介護離職者は、職場で何を感じていたのでしょう?厚生労働省が2016年に委託調査で行った、介護を理由に仕事を辞めた人の48%が、離職前に誰にも相談していないと発表しました。上司や人事部に相談した人は24%だそうです。
介護相談がしやすい環境づくりとして、専門の部署を設置する企業が現れました。
介護保険サービスと社内制度の両輪で対策
損害保険会社の東京海上火災保険は、『産業ケアマネジャー(産業ケアマネ)』による個別相談を用意しました。2016年より、自社や契約企業向けに運用しています。
産業ケアマネは、国が定める主任ケアマネジャーや、日本ケアマネジャーの資格に加え、同社の相談援助技術などの試験に合格した方です。地域包括支援センターや民間介護事業者に関するケアマネとは異なり、企業制度に精通しています。
仕事の状況や本人の体調を聞き、時差出勤などの社内制度の利用を促したり、夜間や週末も介護に追われるようなら、ケアマネがたてたプランの見直しを進めたりしてくれます。
介護保険に加え、企業先独自の制度の利用も促します。有給休暇や介護休暇などの取得ルールの説明や、在宅勤務や時差出勤制度などの紹介を行います。貸付金制度やホームヘルパー費用の補助などもあるようです。
介護前のプラン作成の手助けに加え、介護開始後も相談に応じます。介護者の利用している介護サービスが、利用者の負担軽減になっているか、利用者の希望や体調がケアマネや介護事業者に理解されているかを調査し、アドバイスしています。
企業向けのリスクマネージメントサービスを行うSOMPOリスクケアマネージメントでは、介護保険にとどまらない分野に対応する『産業ソーシャルワーカー(産業SW)』の相談窓口を、契約企業向けに設けます。
身体状況が要介護に至らないが、生活に使用がある、介護保険サービスでは補えない不自由さが悩みの方もいます。産業SWは、介護保険の他に、障碍者向けサービスや自治体が独自に提供する生活支援サービスも考慮してくれるのです。こうしたサービスは、都道府県や市区町村によって異なるため、社会福祉士が所属する日本社会福祉士会ネットワークを活用して、情報提供を行ってくれます。
介護支援が育児支援のようにうまくいかない理由
当記事を書いた2012年は、介護者離職の問題を取り上げる人はそう多くありませんでした。重い腰を上げた政府がとった政策は、育児支援に沿わせた政策です。介護は育児と違って、期限が定まりません。疾病や予期せぬ事態も多いはずです。
その時、書いた記事が以下です。参考までにのせておきます。
育児と介護の支援制度の比較
法律では育児・介護休業法があり、介護休業は全ての企業に義務づけられているというものの、育児と違い介護の場合は、全て同じように取り扱うことが難しく、育児休業と比較するとその支援制度は手薄くなっています。
子育て | 介護 | |
休業 | 子供が1歳になるまで取得が可能 | 介護される人1人につき通算93日 |
休業中の所得補償 | 賃金月額の50% | 賃金月額の40% |
休業中の社会保険料 | 免除 | 免除なし |
急病などの休暇制度 | 看護休暇=1人は年5日、2人以上は年10日 | 介護休暇=1人は年5日、2人以上は年10日 |
短時間勤務 | 子供が3歳になるまで1日6時間勤務が可能 | 義務なし |
介護支援制度が手薄に感じる理由
このような制度の違いが生じるのは、下記のような事が理由です。
- 介護がいつ始まり、いつ終わるのか見通しが立たない。
- 介護の必要な状況がさまざま (要介護度、認知症の有無とその進行状況、介護者と介護される側が、同居、別居、施設入所などの環境の違い)
- おめでたい育児と異なり、周囲に支援を求めにくい
- 介護を行う年齢層が既に企業内では、管理職などが多い
【これ以降の文は、2017年6月20日加筆修正】
介護がいつ始まり、いつ終わるのか見通しが立たない
厚生労働省がまとめた 『平均寿命と健康寿命を見る』によれば、平成22年度の時点で、平均寿命と健康寿命は、以下のとおりとなります。『平均寿命-健康寿命』の値は、男性で9.13年、女性で12.68年です。もし、介護のために仕事を辞めたとしたら、約13年間の生活費の貯蓄が必要な計算です。
- 男性 平均寿命が79.55歳 健康寿命が70.42歳
- 女性 平均寿命が73.62歳 健康寿命が86.30歳
介護の必要な状況がさまざま
介護が必要な理由の上位3位は、脳血管疾患(脳卒中)、認知症、高齢による衰弱です。そのなかでも、介護者の介護時間は、要介護4で53.9%、要介護5で56.1%が、ほとんど終日という回答を得ています。
しかも、40%近くの高齢者の意識は、自宅で介護を望んでいます。同様に50%を超える高齢者の意識も、自宅で生涯を終えることを望んでいます。この数値は、健康な高齢者も含んでいますが、自宅で介護を行う人は必要です。
おめでたい育児と異なり、周囲に支援を求めにくい
厚生労働省が、 「平成27年度雇用均等基本調査」の結果概要の資料の中(P19)に、介護休業の取得状況がまとめられています。
平成26年4月1日から平成27年3月31日までの間に、介護休業を取得した事業所の割合は、1.3%です。資料の中には、男女別の数値も書かれていますが、いずれにしてもわずか1.3%の事業所しか、介護休業制度が利用されていません。
現在、政府で『働き方改革』が進められていて、日本人全体の働く意識が変わることが、介護休業の取りやすさにもつながると期待しています。しかし、一方では過重労働による、過労死のニュースも良く目にするようになりました。意識改革は、ほど遠そうです。
介護を行う年齢層が既に企業内では、管理職などが多い
働きながら介護をする人の割合を、年齢別にみると以下の通りです。明らかに、管理職が多い50歳代がダントツとなっています。(総務省の就業構造基本調査で、平成24年度作成資料)
- 40歳未満が約32万人
- 40歳代が約53万人
- 50歳代が約114万人
- 60歳代が約76万人
しかし、ひとたび、被介護者の衰弱に伴って、要介護4とか要介護5になるようなことがあれば、管理職であるだけに介護休業が取りにくくなります。部下への示しがつかないなどと、考えて離職を選んでしまうのです。
介護者へに、現実的な支援策がなければ、介護離職者の増加は明らかです。
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